治験薬の安定性試験における計画立案から実施の流れ
安定性試験を活用した治験薬開発の計画と実施の流れ
治験薬の開発を進める中で「安定性試験はいつ開始すべきか」「治験フェーズごとにどこまで安定性データが必要なのか」と判断に迷う場面は多くありませんか。治験薬の安定性試験は、長期保存試験、加速試験、苛酷試験の3種類があり、ICHガイドラインや治験計画に沿って適切なタイミングで実施することが求められます。しかし、開発段階ごとの必要要件を誤ると、治験の遅延、追加試験コスト、承認申請資料(CTD)作成のやり直しにつながるリスクがあります。
治験薬の安定性試験を計画的に実施することで、開発期間の短縮、コスト削減、GMP対応データの確保、PMDA審査での指摘回避が可能になります。
ここでは、治験薬に必要な3タイプの安定性試験の違い、治験フェーズ(フェーズ1/フェーズ2/フェーズ3)ごとの安定性試験要件、承認申請に向けた有効期間設定の考え方について、実務に即した形で整理します。
安定性試験の全体像を理解し、法規制に適合しながら効率よく安定性評価を進めるためのノウハウを押さえることで、治験薬開発を円滑に進めることができます。申請用安定性試験や製剤開発、GMP下での品質保証を見据えた適切な試験設計は、治験薬のリスク管理と承認取得のスムーズ化に直結します。
安定性試験の種類とその目的を理解する
医薬品の承認申請、治験薬開発、工場でのPQ・PV対応において、安定性試験は必須の試験です。医薬品が温度変化、湿度変動、光曝露といった環境要因によりどのように品質変化するかを時系列で評価し、適切な保管条件と使用可能期間(有効期間)を科学的に設定するための基盤データを取得します。
安定性試験はICHガイドラインに基づき、
「長期保存試験」「加速試験」「苛酷試験」の3種類で構成され、それぞれ目的が異なります。治験薬開発から申請用安定性試験まで、これらのデータは製剤設計、品質管理、GMP対応のあらゆる工程で極めて重要な役割を果たします。
長期保存試験(長期安定性試験):申請用データの中心
長期保存試験では、原薬または製剤が申請予定の保管条件で、有効期間を通じて品質を維持できるかを確認します。評価は以下の観点で行われます。
- 物理特性(外観、剤形)
- 化学特性(含量、純度、関連物質)
- 生物特性
- 微生物特性
測定タイミングはICHに基づき、
初年度は3か月間隔、2年度は6か月間隔、それ以降は年1回が標準です。
承認申請時は12か月分の長期保存試験データがあればCTD提出が可能であり、承認後もコミットメントとして継続測定します。
この試験が、最終的な有効期間設定の中核データとなります。
加速試験:短期間で長期安定性を予測する必須試験
加速試験は、長期保存試験で確認される化学的変化を短期間で予測するために行います。
また、流通工程で起こり得る一時的な温度逸脱への耐性評価にも用いられます。
標準条件はICH Q1Aに基づき、40℃±2℃/75%RH±5%RHで6か月間。
測定は、0か月、3か月、6か月の3回以上が基本です。
6か月間の加速試験で品質維持が確認できれば、25℃で3年以上の安定性を有する可能性が高いと判断できます。
申請用安定性試験だけでなく、PQ、PV、GMP下での工場ロット評価でも広く用いられています。
苛酷試験(ストレス試験):分解経路と脆弱性の把握
苛酷試験は、流通過程で遭遇する可能性のあるさらに厳しい条件下で品質がどのように変化するかを評価します。
例:50℃、60℃などの高温条件や強光条件
目的は3つ。
- 分解生成物の特定
- 分解メカニズムの理解
- 製剤の脆弱性の把握と設計改善
研究開発段階では、苛酷試験により製剤設計や容器包装選択に必要な基礎データが得られるため、開発効率向上とリスク低減に直結します。
治験の各段階で求められる安定性試験の計画策定
治験薬の安定性試験では、治験フェーズに応じた段階的かつ戦略的な計画立案が必須です。治験は一般的に 第I相→第II相→第III相と進行し、各フェーズで必要となる安定性データの種類、試験期間、ロット要件が大きく異なります。
開発部門や品質管理部門が、申請用安定性試験を見据えた効率的な試験設計を行うためには、フェーズごとに何をどこまで揃えるべきかを理解しておくことが重要です。
第I相:予備的な安定性評価と分解リスク把握
第I相試験では、治験薬の安全性や体内動態を確認するため、実験室スケールで製造されたロットを使用することが一般的です。この段階の安定性試験は、以下の目的が中心となります。
- 苛酷試験(ストレス試験)による分解経路・分解生成物の特定
- 光、熱、湿度への感受性評価
- 保管条件や容器施栓系選定の根拠データの取得
- 加速試験による治験実施期間中の品質維持確認
フェーズ初期から分解メカニズムを把握しておくことで、後工程の製剤設計や包材設計に大きく役立ち、後戻りを防ぐことができます。
第II相・第III相:申請用データ取得を視野に入れた本格的な安定性試験
第II相以降では、パイロットスケール以上で製造した治験薬を使用します。
この段階では、治験薬の品質が下記の双方を反映していることが求められます。
- 非臨床・臨床試験で使用するロットの品質
- 実製造規模で作られる商用品質の特性
そのため、安定性試験では以下の試験を本格的に開始します。
- 長期保存試験(最短12か月のデータ取得)
- 加速試験(6か月データの取得)
- 分析法バリデーションや不純物プロファイルの整備
これらは承認申請時のCTDに必要なデータであり、治験後期での準備が遅れると申請全体がずれ込むため、早期計画が不可欠です。
承認申請に向けた最終フェーズのポイント(第III相)
承認申請段階では、最低3ロット以上の基準ロットで安定性試験を行った結果が必要となります。
第III相フェーズでは、以下が重要になります。
- 実製造規模に近いロットでの長期保存試験を継続
- 申請時に12か月データが揃っていなくても、承認取得後のコミットメント試験計画を提出すれば申請可能
- PQ・PVに向けた工場側での安定性評価の準備
治験フェーズの進行と並行して安定性試験を進めることで、承認審査の遅延を防ぎ、スムーズな申請・上市につながります。
治験薬における有効期間設定のプロセスと評価方法
治験薬の使用可能期間(有効期間)は、安定性試験で得られたデータに基づき科学的に設定されます。原薬や製剤の品質は保管期間中に少しずつ変化するため、安全性と有効性を維持できる期間を明確に示すことは、治験薬の品質保証における最重要ポイントです。
承認申請時の有効期間設定では、長期保存試験(ICH Q1A準拠)で得られる実測データが主要根拠になります。加速試験の結果は補足的に活用されますが、最終判断はあくまで実保管温度での長期データが基盤です。
測定項目と測定時期の設定:治験薬の安定性評価の基本
使用可能期間を科学的に決定するには、保管により変化しやすい品質特性を継続的に測定する必要があります。
測定対象(原薬・製剤)と代表項目
原薬(API)
- 含量
- 分解生成物(関連物質)
- 外観・性状
- 溶状・水分量
製剤(Drug Product)
- 含量・純度
- 分解生成物
- 溶出特性
- 水分・硬度・外観など剤形に応じた項目
測定タイミングはICH準拠で以下の通りです。
- 初年度:3か月間隔
- 2年度:6か月間隔
- 以降:年1回
これにより、治験薬の品質変化を時系列で把握し、有効期間設定に必要な変化傾向を定量化します。
統計解析による有効期間(使用可能期間)の設定
使用可能期間の算出では、単なる数値比較ではなく、統計解析による分解曲線の評価が求められます。
典型的な設定方法
- 各測定時点の定量値から回帰直線(分解カーブ)を求める
- 95%片側信頼限界が規格下限と交差する時点を有効期間とする(ICH Q1Eに基づくアプローチ)
ロット要件
- 3ロット以上の基準ロットが必須
- 傾き・切片にロット間差がなければデータ統合
- 差が大きい場合は、最短のロットの有効期間を採用
この判断はPMDAの査察・照会で重要な確認ポイントとなるため、開発部門と品管部門は特に注意が必要です。
承認申請における有効期間設定の実務ポイント
承認申請に必要な安定性試験データは以下の通りです。
- 長期保存試験:12か月分
- 加速試験:6か月分
申請したい使用可能期間が3年であっても、申請時点で3年分の長期データを揃えておく必要はありません。
申請時点で長期保存試験が有効期間終点まで到達していない場合
→承認後も試験を継続する「コミットメント試験」を提出すればよい
コミットメント試験は、承認後の品質保証に不可欠であり、治験薬の開発スケジュールを遅延させないための重要な仕組みです。
治験薬の安定性試験は専門機関への相談が確実
治験薬の安定性試験には、長期保存試験と加速試験、苛酷試験があり、それぞれ別の狙いで行われます。治験の各フェーズに合わせた試験計画を立て、開発初期から承認申請を視野に入れたデータ収集を進めることが求められます。使用可能期間の決定には、複数ロットの安定性データを統計的に分析し、95%片側信頼限界による科学的根拠が必要です。承認申請段階では最短12か月の長期保存試験と6か月の加速試験データがあれば申請できますが、承認取得後もコミットメント試験として続ける必要があります。
クリタ分析センター株式会社は、GMP省令に準じた安定性試験の受託実績が豊富な分析専門会社です。製薬企業100社超の監査実績があり、厚木事業所と滋賀事業所で日本薬局方やUSP、EPに準拠した製薬用水分析も行っています。治験薬の安定性試験でも、法規制を考慮した試験計画の立案から実施、報告書作成まで一貫対応していますので、お気軽にご相談ください。
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